西澤 秀和 (H26)

まず始めに、私は自分を客観的に観て一般的な大学院に入学するタイプの人間では無いように思います。大学生時代は授業をサボることしか考えていませんでしたし、試験もだいたい前日に徹夜して頭が回らない状況で受けていました。優秀な方と比べると再試を入れて1.5倍くらいの回数の試験を受けているかもしれません。

そんな私が大学院入学を決意した動機は、溢れかえっている情報を自分の力で取捨選択出来るようになりたいと思ったからです。私の幼少期に比べるとインターネットやスマートフォンなどの普及により、誰でも、どこでも最新の情報を入手できる時代になりました。ただ、これらの情報は最新で莫大ではありますが、真実かはわかりません。どこかの誰かが何の根拠も無く発信した情報も沢山あります。つまり、これから先、何十年と生き抜かなければならない私達の世代は正しい情報を選択する能力が必要なのです。この能力は患者さんに最新の知見から医療を提供するためには必須ですし、自分自身や家族の生活を守り、充実させるためにも必要だと考えます。

そして、正しい情報を選択する能力を磨くのに一番良い環境が大学院だと思います。勿論、臨床を行いながら勉強して身につけることも可能とは思います。ただ、私の場合は自分が不器用で楽な方に流されてしまう性格なのはこれまでの人生で十分に理解出来ました。そのため臨床を続けている限り、英語論文を自力で理解したり、最新情報を入手するために海外サイトを漁ったりは到底不可能だと気づいたのです。そこで自分の考え得る範囲で正しい情報を選択する能力を磨くのに一番良い環境が大学院だった訳です。

そう思って私が飛び込んだ基礎の教室はThe International Research Center for Medical Sciences (IRCMS)と言う研究棟に所属しています。名前からして敷居が高く、さらには所属している研究員の半数近くが海外の方で、公用語は英語です。私は生まれも育ちも日本なので言語の壁にしっかりと直面し、挫折しそうになることも多々あります。しかし、前向きに考えれば、国内にいながらに自動ドアの指紋認証を抜けるだけで海外留学した気分になれる環境です。と、これは情熱あふれる上司の助言を借用しました。実際にこれまで約一年の大学院生活をしてみて、慣れない環境に苦労することは多いですが自分の決断は良かったと思っています。

基礎研究は未知のものを証明すると言う性質のため、常に実験結果や参考資料について真実かどうかを疑い、評価します。また、評価の方法を指導してくださる諸先輩方にも恵まれた環境です。良い意味でこれまでの私の人生でこれほど周りを疑って生活したことはありません。しかし、習慣とは怖いもので今ではそれほど意識しなくとも自然と真偽を評価し、選択しているように思います。卒業まで3年間ありますが、諸先輩方のように真実を選択し有用に活用できるようになれればと思います。

臨床で活躍している後輩泌尿器科医の皆さんも日常診療の中で疑問に思うことが多いかと思います。取りあえず先輩に相談してなんとなく切り抜けていることも多いのでは無いでしょうか。そんな時に自分で調べて最良の方針を提案できるようになりたくはありませんか。長い泌尿器科生活の基礎を作る良い機会ですので、もし少しでも興味のあるようなら大学院を今後の選択肢の1つとして考えて頂ければと思います。