精巣腫瘍

精巣(せいそう)とは

精巣(せいそう)は、男性の陰嚢内にある卵形をした、左右に1つずつある臓器で、睾丸(こうがん)とも呼ばれています。

精巣には主に男性ホルモンを分泌する働きと精子を作る働きがあり、それぞれ別の細胞によって行われています。男性ホルモンを産生するのがライデッヒ細胞、精子をつくるもとになるのが精母細胞です。

精巣腫瘍

精巣には種々の良性及び悪性腫瘍が発生しますが、精巣腫瘍のほとんど(約95%)が、精子を作り出す精母細胞が悪性化したものです。精巣腫瘍の組織は精上皮腫(セミノーマ)と呼ばれるタイプとそれ以外(非セミノーマ)に大別されます。

年間発生率は人口10万人あたり1-2人とまれな疾患で、小児期にもピークがありますが、主に2030歳代の若年男性の発生頻度が高く、比較的早くから転移を来し、また悪性度が高いという特徴があります。

リンパ節や肺、その他の臓器に転移していても抗がん剤を使った化学療法と手術を適切に組み合わせることにより、約80%の患者さんで治癒に導くことが出来るようになってきています。

精巣腫瘍の確立したリスク要因は、停留精巣(乳幼児期に精巣が陰嚢内におさまっていない場合)の既往とされています。停留精巣の男性の精巣腫瘍のリスクは、そうでない男性の2.510倍程度と報告されています。

また、ホルモン要因と遺伝要因も重要な原因と考えられ、胎児期のエストロゲン曝露(ばくろ)、精巣腫瘍の家族歴もリスク要因として挙げられています。  

精巣腫瘍の症状

早期では、痛みを伴わない精巣(睾丸)の腫大(無痛性腫大)が主な症状です。痛みを伴うことはほとんどないため、精巣(睾丸)が腫大していたり硬結を触れていても、恥ずかしさから受診せず、進行してしまう症例を多く認めます。

精巣(睾丸)が腫れる疾患としては、痛みのない「陰嚢水腫」や痛みや熱を伴う「精巣上体炎」などの良性疾患の方がより一般的ですが、自覚症状だけでは区別が難しく精巣(睾丸)に上記の異常を感じた場合は、泌尿器科専門医を受診することをお勧めします。

精巣腫瘍は転移していても治癒可能ですが、転移しない状態(病期)で治療を開始すればより負担が少なく、より高率に治癒が可能ですので早期受診が重要です。

精巣腫瘍の検査

1.画像診断

・陰嚢部超音波検査

初期診断に有用であり、腫瘍の多くは低エコー領域(黒っぽく)として検出されます。精巣腫瘍の多くは悪性であり、カラードップラーでは組織内血流の増加を認めます。

MRI

 充実性腫瘍における高い組織内血流増加を検出することが可能であり、精巣腫瘍の診断に有用であるため、状況に応じて行うこともあります。また、脳転移などの診断にも有用です。

CT

肺やリンパ節への転移の有無、腫瘍の状態や周辺臓器への広がりもみます。

・骨シンチグラフィー

必要に応じて、骨転移の有無も調べることがあります。

2.血液検査

すべての症例で必ず上昇するというわけではありませんが、精巣腫瘍にも腫瘍マーカーと呼ばれる指標が存在し、αフェトプロテイン(AFP)、hCGLDHなどです。これらの腫瘍マーカーは、腫瘍の種類の判断や治療の際の目安にもなるため重要な検査の1つとなります。ただ、これらは精巣腫瘍に特異的というわけではなく、他の腫瘍性疾患などでも上昇することがあります。

精巣腫瘍の診断

精巣腫瘍は非常に進行が速く、転移しやすいという特徴に加えて、画像診断・血液検査だけでは腫瘍の分類まではわからないということもあり、精巣腫瘍が強く疑われる場合には、できるだけ早く精巣腫瘍を摘出(高位精巣摘除術)することになります。

手術で取り出した精巣を顕微鏡で調べる検査(病理検査)により確定診断されます。

病期分類

病期は、腫瘍の進行の程度を示し、腫瘍の大きさ、周囲組織への広がり、リンパ節や他臓器への転移の有無によって決まります。

出典:日本泌尿器科学会、日本病理学会編「泌尿器·病理 精巣腫瘍取扱い規約 20053月【第3版】」(金原出版)より抜粋

IGCCInternational Germ Cell Consensus)分類

進行性精巣腫瘍の予後及び治療法を決定するのに必要不可欠です。

出典:『精巣腫瘍診療ガイドライン 2015 年版』(金原出版)より抜粋

精巣腫瘍の治療

セミノーマとセミノーマ以外(非セミノーマ)で治療が異なります。

精巣腫瘍診療基本アルゴリズム

出典:『精巣腫瘍診療ガイドライン 2015 年版』(金原出版)より抜粋

進行性·難治性精巣腫瘍治療アルゴリズム

出典:『精巣腫瘍診療ガイドライン 2015 年版』(金原出版)より抜粋

①手術

・高位精巣摘除術

基本的に実施される手術で、精巣(睾丸)と精索(血管と精子の通る精管が束になった、おなかの中で精巣とつながっている管)をお腹に入る手前まで取り除きます。

その他、後腹膜リンパ節郭清術、転移巣切除術などがあります。

②化学療法(抗がん剤治療)

期で再発の可能性が高い場合や、期以上の多くは、化学療法による治療が行われます。

期以上の非セミノーマの場合、術後の化学療法のみでは治らないことも多く、化学療法後の残存腫瘍に対する再手術が必要となることもあります。

③放射線治療

・セミノーマでは、放射線治療が特に有効であり、期の再発予防目的とⅡA期に対して行われることがあります。

・一方、非セミノーマでは放射線治療の効果はあまり期待できないため、初期治療として選択されることはあまりありません。