穴見 俊樹 (H24)

泌尿器科医全員がそうだと思いますが、私はもともと手術に興味があり、入局しました。そのため、学位には特に関心はなく、大学院は別世界という印象で、臨床一本のつもりでいました。きっかけとしては、大学に戻る際、神波教授に『必ず臨床に活きる』という言葉を頂き、入学するに至りました。

私は現在、細胞病理学講座に出向して研究をしています。当研究室はマクロファージに強い研究室です。そこで、リンパ節のマクロファージと癌の関係をテーマに実験をしています。

いざ、研究を開始すると、免疫染色・細胞培養・P C R・マウス実験など新鮮なことばかりです。医師9年目にして、何もわからなかった研修医時代を思い出しました。結果が出ずに落ち込むことが多いですが、その分、仮説通りに結果が出ると嬉しい気持ちになります。

研究ではまず自分が使用する実験器具、方法の原理を理解する必要があります。結果が得られなかった際にどこの行程がおかしいのかフィードバックし考え、次に繋げなければなりません。丸暗記でこれまでの試験などを乗り切ってきた私にはあまりその理解し考える習慣がありませんでした。臨床においても、これまで「癌」は「癌」としてしか認識していませんでしたし、癌治療のために種々の薬剤を使用していましたが、おおまかな作用機序は知ってはいるものの、深くは考えていませんでした。しかし、実際は「癌」には癌細胞だけではなく、マクロファージやリンパ球、線維芽細胞など多くの細胞が集まり、それぞれが癌の進展や抑制のバランスをとっていること、どこをターゲットとした薬剤なのかを理解することはとても重要です。

ガイドラインに沿った診療を行なっていますが、患者背景や、病態の違いなど、全員に一般的な指針が当てはまるわけではありません。その明確な答えがない問いに答えなければならない臨床で、ものごとを理解し考えることがベストな決定を行う上で必要なのではないかと思います。そのような力を養うために、大学院で研究することが、神波教授の『必ず臨床に活きる』という言葉につながってくるのではないかと勝手に考えております。

私生活では働き始めてからは忙しいことが多く、子育ては任せきりとなっていました。臨床と比べ時間があるので、これまでの負債を挽回したいと思っています。先日次男が生まれましたが、慣れない沐浴やおむつ替えなど奮闘しております。

今の大学院生活が臨床で活きるかどうかの答えは5年後ぐらいしかわかりませんが、これからの30-40年の臨床生活の中のたった4年間でこんなにも新鮮な体験ができるのは幸せなことだと思います。みなさま、大学院進学を前向きに検討してみてください。