尿路上皮癌(膀胱癌、腎盂尿管癌)
- Category:泌尿器科の主な病気
腎盂、尿管、膀胱、尿道と尿の通り道(尿路)は尿路上皮といわれる上皮粘膜で覆われており、尿路上皮から発生するがんを尿路上皮がんといいます。尿路は大きく二つに分類され、腎盂・尿管を上部尿路、膀胱・尿道を下部尿路といいます。ここでは上部尿路と下部尿路にわけて、尿路上皮がんについて説明いたします。
腎盂・尿管がん(上部尿路がん)
【はじめに】
腎盂尿管の尿路上皮粘膜より発生する悪性腫瘍であり、膀胱がんに比べまれであり、全尿路上皮腫瘍の約5%とされています。上部尿路がんのうち、約25%が腎盂に発生し、約75%が尿管に発生します 。腎盂・尿管がんは,50~70歳代に多く認められ、男性のほうが女性より頻度が高く、2倍以上とされています。腎盂がん、尿管がんの両方で、罹患者数、死亡者数ともに近年増加傾向にあります。
腎盂尿管がん発症の危険因子として、喫煙、医薬品、慢性感染症、化学発癌物質の曝露、職業性発がんが挙げられます。特に喫煙は最も重要な腎盂・尿管がんの危険因子で,喫煙者や過去に喫煙歴を有する患者では非喫煙者と比べ腎盂・尿管がんの発症リスクが増加するとされています。また尿路結石や尿路閉塞に伴う慢性細菌性感染は腎盂・尿管癌発生のリスク因子と考えられています。職業性発がんとしては,石油,木炭,アスファルト,タールなどの産業従事者は4~ 5倍の腎盂・尿管がんの発症リスクを有します。
腎盂・尿管がんは,膀胱や尿道を含めた尿路全体に多発する臨床的特徴をもちます。腎盂尿管内腔に腫瘍が多発して存在する場合や,腎盂・尿管がんの診断時、同時に膀胱がんがみつかることも少なくありません。
【症状】
腎盂・尿管がんで最も多い症状は、排尿時に目で見てわかる血尿です(肉眼的血尿)。その際に痛み等の症状を伴わないことが多いことが特徴です(無症候性肉眼的血尿)。尿管が癌の組織や凝血塊でつまった場合に、尿路が閉塞されて、水腎・水尿管症(尿がうっ滞して腎臓や尿管が腫れた状態)を形成し、尿管結石の時のような腰背部痛、側腹部痛、下腹部痛を生じることもあります。しかしながら腎盂・尿管がんの場合は、閉塞が起きても緩徐なため、実際は上記のような症状を示すことは多くはありません。がんが周囲に広がっているような状態では、広がった部位に応じて痛みを生じる場合があります。
【検査】
検尿・尿細胞診
肉眼的血尿がない場合でも、検尿でのみわかる血尿(顕微鏡的血尿)を呈していることが多く、また尿細胞診(尿中の細胞をみる検査)で悪性所見を認める場合があります。
超音波検査
発生部位にもよりますが、水腎症・水尿管が確認される場合があります。腎盂がんの場合はがんそのものが確認できることがあります。
CT検査
がんの有無、部位の診断に最も有用な検査です。同時にCT尿路造影も行えることから腎機能に問題がない限り、造影剤を用いて行います。
MRI検査
必須な検査ではありませんが、CT検査だけでは診断が困難な際や、深達度(がんの深さ)を調べる際に追加で行います。
膀胱鏡検査
膀胱の中を直接内視鏡でみる検査です。上記のように上部尿路がんと同時に膀胱がんが見つかることが珍しくないため、当科では上部尿がんが疑われる患者さん全例で行っております。
腎盂・尿管鏡検査
手術室で麻酔をかけて、腎盂・尿管を内視鏡でみる検査です。病理学的確定診断のため、当科では基本的に全例行っています。その際に腫瘍組織を採取し、病理検査をおこないます。
逆行性腎盂・尿管造影
尿管内に尿管カテーテルというチューブの一種を挿入し、造影剤を注入して腎盂・尿路の造影検査を行います。上記の尿管鏡検査と同時に行うことが多いのですが、CT検査で造影剤が使えないような患者さんなどでは、外来検査で行うこともあります。
【病期分類】
病期0:非浸潤がん
病期1:粘膜下層に浸潤
病期2:筋層に浸潤
病期3:筋層を越えて尿管周囲もしくは腎盂周囲脂肪組織もしくは腎実質に浸潤
病期4:他臓器に直接浸潤もしくは転移したもの
TNM分類
T:原発腫瘍の壁内深達度
Tis:上皮内がん
Ta:粘膜にとどまる
T1:粘膜下固有層までの浸潤
T2:筋層までの浸潤
T3:筋層を越えて腎盂や尿管周囲の脂肪組織あるいは腎実質におよぶ浸潤
T4:隣接臓器への浸潤あるいは腎を越えて腎周囲脂肪組織への浸潤
N:所属リンパ節
N0:転移なし
N1:2cm以下の1個の転移
N2:2cmから5cmの1個の転移または5cm以下の多発性転移
N3:5cmを越える転移
M:遠隔転移
M0:転移なし
M1:遠隔転移有り
上記の病気診断に基づいて治療が行われます。
【治療】
手術
転移がない場合に第一選択となる治療です。腎臓と尿管、膀胱の部分切除を同時に行います。当科ではほぼ全例を腹腔鏡手術で行っています。腹部手術歴や高度癒着が予想される場合は、開腹手術を選択する場合もあります。同時にがんの発生部位に応じたリンパ節郭清を行います。診断時に転移がある場合でも、下記の化学療法が奏功した場合、当科では積極的に手術行っています。
化学療法(抗がん剤治療)
すでに転移がある状態の患者さんに行う治療です。当科ではゲムシタビンとシスプラチンの併用療法であるGC療法を第一選択治療としております。現在、GC療法を含めて、4種類の化学療法が院内で登録されています。また状態に応じて手術前、手術後の化学療法を行う場合もあります。
放射線治療
尿路上皮がんでは放射線治療はあまり高い効果は期待できません。転移があって根治が望めない場合や年齢、合併症などにより手術が難しい場合、痛みなどの不快な症状を緩和するために放射線療法が選択されることもあります。
BCG注入療法
腎盂・尿管の上皮内がん場合は、カテーテルを使ってBCG(牛の結核菌)を注入を行うことがあります。
【再発の診断および再発時の治療】
表在がんの治療成績は良好ですが、上記のように膀胱内に再発しやすいという特徴があります(20-50%)。一方、浸潤がんであった場合は、局所再発やリンパ節転移・遠隔転移を生じやすく予後不良です。定期的な膀胱鏡検査や、CT検査などによる局所再発や転移の検索を行います。膀胱内再発の場合、多くは内視鏡手術で治療可能です。一方、リンパ節や他の臓器に転移するかたちで再発した場合、化学療法を行い、その効果をみて手術療法や放射線療法の追加を考慮します。
【予後】
表在がん
生命予後はとても良好で、5年生存率は85-100%とされています。一方、膀胱内再発がかなり多い (20-50%) ため、定期検査が必要です。膀胱内再発の多くは内視鏡手術で治療可能です。
浸潤がん
転移がなければ根治手術により治る可能性も低くありません。浸潤の程度が深い場合(T3以上)は術後化学療法を加えた方が、生命予後が改善する可能性があります。病期別の5年生存率は、病期2が75%、3が54%、4が12%程度とされています。
有転移症例
手術のみで根治は不可能です。リンパ節転移のみであれば抗がん剤治療でかなりの治療効果が期待できますが、根治に至る可能性はかなり低いのが現状です。
膀胱がん(下部尿路がん)
最初に尿道にがんが発生することはほとんどないため、ここでは主に膀胱がんについて説明します。
【はじめに】
膀胱がんは,膀胱の尿路上皮粘膜より発生します。膀胱がんは診断時に膀胱内に多発することや、内視鏡による治療後の膀胱内再発の頻度が高いことが特徴です。全尿路がんの約95%が下部尿路がんとされ、尿路上皮がんのほとんどは膀胱がんといえます。また同じ尿路上皮がんである上部尿路がん術後に、膀胱内再発として膀胱がんが生じる頻度は、20~50%程度とされています。
男性に多く、女性の約4倍の頻度で発生し、比較的高齢者に多いがんです。上部尿路がんと同様に危険因子として喫煙があげられ、非喫煙者と比べて2~5倍、発症リスクを高めるとされています。その他も上部尿路がんと同様に、医薬品、慢性感染症、化学発癌物質の曝露、職業性発がんが挙げられます。
【症状】
膀胱がんで最も多い症状は上部尿路がん同様に、排尿時に目で見てわかる血尿です(肉眼的血尿)。その際に痛み等の症状を伴わないことが多いことが特徴です(無症候性肉眼的血尿)。まれに頻尿、排尿痛といった膀胱炎症状でみつかることもあります。がんが周囲に広がっているような状態では、広がった部位に応じて痛みを生じる場合があります。
【検査】
検尿・尿細胞診検査
肉眼的血尿がない場合でも、検尿でのみわかる血尿(顕微鏡的血尿)を呈していることが多く、また尿細胞診検査(尿中の細胞をみる検査)で悪性所見を認める場合があります。膀胱がんのなかでも上皮内がんは、下記の膀胱鏡で確認困難なことがあり、その際は尿細胞診検査が重要となります。
超音波検査
大きさや形状にもよりますが、超音波検査で直接確認できることめずらしくありません。また腎臓をみて、同時に上部尿路のスクリーニング検査を行います。
膀胱鏡検査
膀胱の中を直接内視鏡でみる検査です。がんの有無を直接確認することができ、がんがある場合は手術に備えて、がんの部位、大きさ、形状を確認し記録します。
MRI検査
がんの深達度(がんの深さ)を診断するうえで重要な検査です。がん小さく、明らかに表在がんと考えられる場合は省略することもあります。
CT検査
膀胱がんの診断そのものにはあまり重要ではありませんが、上部尿路のスクリーニング検査として行います。
【病期分類】
病期0期:TaあるいはTisでリンパ節転移および遠隔転移なし
病期1期:T1でリンパ節転移および遠隔転移なし
病期2期:T2でリンパ節転移および遠隔転移なし
病期3期:T3でリンパ節転移および遠隔転移なし
病期4期:T4あるいはリンパ節転移あるいは遠隔転移あり
TMN分類
T:原発腫瘍の壁内深達度
T0:原発腫瘍なし
Ta:乳頭状非浸潤がん
Tis:上皮内がん(CIS)
T1:上皮下結合組織に浸潤する腫瘍
T2a:筋層の半ばまでの浸潤
T2b:浸潤が筋層の半ばを越えるもの
T3a:膀胱周囲脂肪組織への顕微鏡的浸潤が想定される
T3b:膀胱周囲脂肪組織への肉眼的にはっきりとした壁外浸潤が想定される
T4a:前立腺、精嚢、子宮あるいは腟への浸潤
T4b:骨盤壁あるいは腹壁への浸潤
N:所属リンパ節
N0:転移なし
N1:小骨盤腔内に1個のリンパ節転移
N2:小骨盤腔内の多発リンパ節転移
N3:総腸骨動脈リンパ節転移
M:遠隔転移
M0:転移なし
M1:遠隔転移有り
【治療】
手術
経尿道的膀胱腫瘍切除術(内視鏡手術)
まず診断と治療をかねて尿道から内視鏡を挿入し、内視鏡で腫瘍を切除します。切除した組織を病理検査(顕微鏡の検査)に提出し、深達度を調べます。また術前検査で明らかな筋層浸潤がんである場合を除き、術後24時間以内に抗がん剤の一種であるピラルビシンを膀胱内に注入しています。深達度が高い(腫瘍が深い)場合や、腫瘍が広範囲に存在した場合は、二次的内視鏡治療を行うこともあります。
膀胱全摘除術
画像上明らかな転移がなく、深達度が膀胱筋層以上の場合に行います。膀胱と尿道(男性の場合は前立腺も)を一塊として摘出し、同時にリンパ節郭清も行います。当科では基本的に腹腔鏡手術で行っております。ほとんど患者さんに術前化学療法を3コース行っています。診断時に転移がある場合でも、下記の化学療法が奏功した場合、当科では積極的に手術行っています。
尿路変向
膀胱を摘出した場合、術前とは異なった方法で尿の排泄を行う必要があります。
・回腸導管:回腸(小腸の一部)を利用します。回腸の一方に尿管を吻合し、もう一方を皮膚に固定します。回腸周囲の皮膚に袋(パウチ)を貼り、尿は袋の中に排泄されます。
・新膀胱:回腸を利用し回腸を袋状に形成し、腹腔内に代用膀胱を作り、尿管と尿道を吻合します。尿は術前と同じく尿道から排泄します。
・尿管皮膚瘻:尿管を皮膚に固定します。回腸導管と同じく、尿は袋の中に排泄されます。
化学療法(抗がん剤治療)
すでに転移がある状態の患者さんに行う治療です。当科ではゲムシタビンとシスプラチンの併用療法であるGC療法を第一選択治療としております。現在、GC療法を含めて、4種類の化学療法が院内で登録されています。また状態に応じて、手術の項で記載した、手術前化学療法や、手術後の化学療法を行う場合もあります。
放射線治療
尿路上皮がんのなかでも膀胱がんに対して、放射線治療は一定の効果が期待できますが、単独での根治は困難です。前記化学療法を組み合わせて行うこともあります。年齢、合併症などにより手術が難しい場合、痛みや血尿などの不快な症状を緩和するために放射線療法が選択されることもあります。
BCG注入療法
上皮内がん場合は、膀胱内にカテーテルを使ってBCG(牛の結核菌)注入を行うことがあります。
抗がん剤注入療法
表在がんの再発予防目的に抗がん剤の一種である、ピラルビシンやマイトマイシンCを膀胱内に注入する治療があります。
【再発の診断および再発時の治療】
表在性がんの場合は、膀胱鏡検査、尿細胞診検査、超音波検査で膀胱内再発の有無を検査します。上部尿路再発や遠隔転移も全くないわけではないため、適宜CT検査も行います。膀胱内再発時には再度内視鏡手術を行います。その際も深達度に応じて、再度の内視鏡手術やBCG、抗がん剤の膀胱内注入療法を行います。
浸潤がんの治療後に関しては、主にCT検査と尿細胞診検査で再発の有無を調べます。上部尿路のみ再発であれば手術も考慮いたしますが、遠隔転移を認めた場合は一般的に化学療法を行います。