前立腺癌

1. 前立腺癌の基礎知識

前立腺癌の頻度は10万人辺り約118人で男性では胃癌、大腸癌、肺癌についで第4位と高頻度です。(右図)また、死亡数も男性癌死亡全体の約5%を占めます。今後も前立腺癌死亡率は増加する事が予想されており、2020年には約2倍になると言われています。前立腺癌が高頻度である背景には前立腺癌特異抗原(PSA)の普及が挙げられます。PSAはかなり鋭敏な検査であるため、多くの患者さんの早期発見に繋がっていますが、同時に治療の必要のない癌(ラテント癌)の発見する頻度に繋がっている可能性も指摘されています。前立腺癌での決定的な危険因子は不明ですが、確実な要因には遺伝的因子が挙げられています。また、動物性脂肪を摂取する機会の多い欧米式の食生活が関与することも示されています。

2. 前立腺癌の好発年齢

前立腺癌は65歳前後から顕著に増加します。

3. 前立腺癌の症状

早期の前立腺癌は基本的に無症状です。近年は検診でPSA高値を指摘されて診断される場合がほとんどです。前立腺肥大症による排尿障害(尿が出にくい、回数が多い等)や下腹部の不快感を訴える場合もあります。進行すると骨に転移し易いため、骨の痛みを訴える場合もあります。

4. 前立腺癌の病期

前立腺癌は、4つのステージに分類されます。ステージAは、検査でも発見不能な癌で前立腺肥大症の手術で偶然発見されるもの、ステージBは前立腺被膜内にとどまっているもの、ステージCは前立腺被膜を超えて進展しているもの、ステージDはすでに転移をしているものになります。

5. 前立腺癌の治療

前立腺癌は大きく4つ(手術放射線治療ホルモン療法抗癌剤治療)の治療法があり、各ステージによって治療が決まります。手術は、開腹手術と腹腔鏡手術がありますが、近年は手術支援ロボット(ダヴィンチによる手術が当院も含めて主に行われています。放射線治療は、体の外から放射線をあてる外照射療法と、体の中から放射線をあてる組織内照射療法(密封小線源療法)があります。ホルモン療法は、精巣や副腎から分泌される男性ホルモンの刺激で癌が進行するという性質を利用して、男性ホルモンの分泌や働きを妨げる薬物を投与します。抗癌剤治療は、ホルモン療法が有効でない症例や、ホルモン療法の効果がなくなったときに行います。

6. 前立腺癌の薬物療法

前立腺癌の薬物療法で最初に行われるのは、ホルモン(内分泌)療法です。この治療を最初に行う事でほぼ全例に著効しますが、約半数は数年後に効果が減弱していき、癌細胞が再活性化して増殖を開始する再燃が認められます。ホルモン治療により男性ホルモンが抑制された状態にも関わらず再燃した前立腺癌を去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)と言います。

CRPCになっても直ぐに生命を脅かす状態になる訳ではありません。抗アンドロゲン剤の休止抗アンドロゲン剤の交代療法女性ホルモン剤の投与新規アンドロゲン剤の投与アンドロゲン合成阻害剤の投与、全身状態が可能であれば抗癌剤の投与を行いながら継続して治療を行っていきます。これらの治療で前立腺癌の根治は望めませんが、PSAの低下は期待出来ます。また、これらの治療は抗癌剤治療以外、外来で行いますので日常生活も基本的には問題なく過ごせます。

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